2013年5月13日月曜日

まちかどエッセー#5 「たたずまいを整える仕事」

 3Dプリンターという言葉を耳にされた方も多いのではないでしょうか。最近メディアで取り上げられることも多いこの技術は、コンピューターで設計した3次元のかたちをそのまま合成樹脂などの立体物として造形するというものです。パソコンのモニターに映し出される単なる情報としてのかたちを、実際のものとして手に取ることができるということで「魔法の技術」として紹介されることも多いようです。
 近年こうした機材が個人でも買えるような価格になり、デジタルファブリケーションとも呼ばれる、パソコンと連動したこれらの機材を使ったもの作りが身近になってきました。とはいえ、全ての人にとってすぐに始められるものでもありませんので、まずは体験ができる市民工房のような場所が世界中に立ち上がっています。
 ここ仙台にもつい先日、仙台駅前に工房がオープンしました。さまざまな人がさまざまなもの作りを実験的に行い、インターネットを通じてその経験や工夫を世界中の仲間と共有して、新しいもの作りの可能性を探っています。
 パソコンのプリンターは家庭を印刷所に変えた、とも言われるように、デジタルファブリケーションが家庭を小さな工場にする可能性を秘めているという研究者もいます。個人のもの作りの在り方を大きく変えるかもしれないこの技術は、実は工芸職人さんにとって、とても大きな可能性を秘めています。
 工芸は手を尽くして、もののたたずまいを整える仕事です。パソコンでいくら簡単にものが作れるとしても、実際のものが手触りやたたずまいにおいて魅力的でなければ、それには価値がありません。この点でこうした工房の運営者の多くが、工芸技術との取り組みを切望しています。一方で、職人さんたちにとって、これらの技術はどこか縁遠いものと捉えられがちのようです。そこで、宮城大学では漆とデジタルファブリケーションによる造形研究のほか、職人さんのデジタルファブリケーション技術の利活用支援を行っています。

→まちかどエッセー#6 http://kekitonji.blogspot.jp/2013/05/6.html

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