2013年6月24日月曜日

まちかどエッセー#8 「あたながつくる未来の漆」

 これまで、このコラムでは、あまり知られていない漆のさまざまな性質をご紹介してきました。抗菌作用があることや、経年で色が変化すること、天平時代には漆で仏像が作られていたことなど、初めて知った事実も多かったと思います。
 食用としての歴史も古く、新芽は山菜独特のえぐみが非常に少なく食べやすいそうです。明治になると、近代漆芸の始祖、六角紫水が実から漆コーヒーを開発するなど、さまざまに食用に供されてきました。漆の実は他にも、飼い葉に入れて競走馬の強壮剤にも使われました。
 また、実はろう成分を含んでおり、江戸時代から昭和30年代まで、このろう成分を搾り出して、ろうそくやびんつけ油などの原料としても用いられました。
 漆の木は水に強く、漁業で使う網の浮子(うき)にも使われました。樹皮や幹は染料としても利用されてきました。無駄にするところのない、優秀な材木なのです。
 樹液は塗料以外にも、接着材として、着物の金糸、銀糸の制作にも使われました。家具の部材を接着するために、ほぞ(木を組み合わせる技術)穴に漆が充塡(じゅうてん)された部分は、他の部分が腐って壊れても、原形を留めていることがあります。その強烈な接着力は文化財修復家の手を煩わせるほどです。
 全国の大学では、さまざまな研究を通して漆の新しい可能性が次々に解明されています。宮城大学では東京芸術大学建築科と共同で、構造材としての性能を評価しています。漆と布だけでできた椅子を制作、人が座ってもびくともしないデザインを実現しました。つい先日には、岩手医科大学薬学部創剤学講座の研究グループによって、漆の幹に血圧を低下させる成分が含まれている可能性が示唆されました。
 漆を、工芸としての理解だけでなく、さまざまな機能のある材料とそれを取り扱う技術として、現代的に再解釈すると、新しい漆の姿が見えてくるのではないでしょうか。みなさんのアイデアが漆の未来を切り開くかも知れません。さて、あなたなら何に漆を使いますか?

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